帯広から札幌へ

帯広を札幌と比較して思うのは、整然とした町割でありながら、その中心が大きくずれていることである。北1西1は大きく北東に偏り、市域は南西へと広がっている。十勝川と中札内川の合流地点から川から遠ざかるように市域が広がっている。ここはかつて広大な湖だったという。十勝平野一帯に広がる泥炭層の厚い堆積がそれを示している。百数十年前は、じめじめとした湿地が広がり、人はほとんどいなかったのだ。十勝川温泉のそばにある展望所から、十勝平野、その向こうの日高山脈を望むことができる。

「開拓」というのは「本当に大事なもの」を探す心にはそれは重く響く言葉だ。この地には明治開拓期の依田勉三、戦後開拓の坂本直行という巨人がいた。直行さんが描いた日高の山並みを街から望んでみたかったが、あいにくこの地域には珍しい雲の多い日だった。

市内には銭湯が多く、そのいずれもモール泉をたっぷりとたたえている。シャワーから出る湯もモール泉だ。茶色く濁った湯は肌につるりとまとわりつく。これもまた泥炭の産物である。私が入ったのは「アサヒ湯」「白樺湯」そして以前に「おべりべり温泉」。最後の湯はシャワーはモール泉でなかったと記憶している。

特別風が強く吹き抜ける日だった。その低い箱のような家が並べられたような街並みに風は迷うことなく吹き抜けていく。駅北側の繁華街は、そんな風から多少身を守れそうだ。駅北側に商店街や飲み屋、そして夜の店が混然となって軒を連ねる。商店街の中心に藤丸百貨店があったが、2022年閉店してしまった。アーケード街も歯抜けのような空洞があって昼歩く人はほとんどいない。夜の人では多い。したたかに飲んで友人の家に転がり込んだ。

食。帯広地方中央卸売市場の場外では海鮮や野菜などが買えた。中の食堂でも海鮮を食べることができる。豚丼、豚カツ、豚の美味しい土地だ。はげ天は老舗の天ぷら屋である。オーストラリアスタイルの喫茶店もあった。大柄なカップに並々と注がれたコーヒーを飲むことができた。30分ほど来るまでかかるが、近郊の池田町ではワインが有名だ。寒冷地に適応させた品種・栽培方法で赤ワインを町の事業として製造している。

釧路から来た特急おおぞらに乗り込んで、札幌へと向かう。この日の日差しは明るく、山々は白く輝いていた。ディーゼルカーの重々しい走り。だんだんと日高の山の中へと入る。葉の落ちた広葉樹のなかで黒々としたトドマツやエゾマツが目立った。モノトーンの世界である。トマム占冠、夕張を抜けて石狩低地帯の穀倉地帯へと出た。ここまで来れば、札幌はすぐそこである。